ポートアイランド観光と建築探訪~Part2

ファッション系等の大企業本社が集積

ポートアイランドの建築探訪~Part2では、安藤忠雄の設計した「JUNポートアイランドビル」のある南公園駅の周辺を中心に歩いて撮影してきました。
特にこのあたりは「ファッション・コンベンション業務地区」という地区計画のエリアになっているため、アパレル系の大企業等の本社ビルや、神戸国際展示場やコンベンションセンターが集積しており、さらには広大な「IKEA神戸店」等があったりと、位置的にもポートアイランドの中心地的なエリアです。

ファッション以外にも、UCCやユーハイムの本社ビルがあったりするので、必ずしもファッション系企業限定ということではないようですがそのあたりの事情はよくわかりません。いずれにしても、錚々たる企業の本社ビル等が集積しており神戸を代表する産業都市でしょう。

平日はポートライナーの通勤ラッシュ時の混雑も相当な問題のようで、ビジネス人口はかなりなものだと思われますが、私が土日に訪れた際には、IKEA神戸店や国際展示場等などの人が集まるスポット以外は、逆に落ち着いて静かなエリアでした。

遠くからも一際目立つ大手アパレルメーカー「ワールド」の本社ビル

ポートアイランドで目立つビルと言えば、高さのある神戸ポートピアホテルと、このアパレルメーカー「ワールド」の本社ビルです。
シャキッとしたこのビルは、設計も施工も「竹中工務店」となっていました。
まあ、どこがどうという目立ったところのない大人なデザインのビルなので「面白味に欠ける」なんて書いてあるブログもありましたが、ファッションのメーカーなので、もう少し攻めたデザインのビルでもいんじゃないの、という意味なんでしょうね。
アパレルメーカーだからと言って、本社ビルの外観に面白味が必要なわけではありませんので大きなお世話ですよね。

こちらの場所から撮影すると、あら不思議、少しワールドのビルが攻めた外観のように見えますが、実はこ手前の円形のビルは、子供服のブランド「ベベ」を展開するジャヴァクループのビル。角度によって一体のビルのように見えますが、会社もビルも全く別です。
そして、左が神戸ポートピアホテル。ジャヴァグループのビル設計の詳細は不明ですが、ポートピアホテルは大手組織系の日建設計。

神戸ポートピアホテルは神戸ポートアイランド博覧会が開催された1981年に開業したたホテルで、博覧会の際には昭和天皇が宿泊したそうです。このホテルは、あのダイエー創業者「中内㓛」の弟、中内力が父から引継いだ「サカエ」をダイエーに売却した際の資金を元手に建設したそうで、現在も中内家親族が経営しているとのこと。
もともと神戸発の企業だったダイエーが神戸に残したものはいろいろあるんですね。

働き方改革を目指して本社機能を移転した「シャルレ」

JUNポートアイランドビルからもすぐ隣にあるシャルレ本社ビル

つい最近、神戸須磨区に合った本社機能を、ポートアイランドの旧本社ビルに、再度移転するとのニュースもある、アパレルブランドの「シャルレ」の本社ビルです。ちょうど、「JUNポートアイランドビル」の東側の隣の敷地にあります。
ニュースによれば、本社移転の理由のひとつに「働き方改革」がある、ということで、いわゆるクリエイティブ・オフィスとしてのビルの立地や機能が、このポートアイランドのビルの方がマッチしている、という判断なのでしょう。

ご存じのように、ポートアイランドは埋め立てでできた人工島ですし、地震の際に液状化で大変だったという経緯もありますので、わざわざ本社機能をここに戻すというのは、東京でいえば湾岸エリアですので、BCP優先の大手企業としては不思議に思うところもあります。

しかし、実際にポートアイランドに行ってみて思ったのは、神戸市が1000年に一度の津波に耐えられる対策を終わっている、とか、地盤改良の進展など、それなりの震災対策もできていることに加えて、そもそも、このエリアには密集した木造エリアがなく、大規模な火災の心配がなさそうなのと、極論ですが、液状化ではすぐには人は死なないですし、逆に、安全なのではないかと。

また、この付近のビルは頑丈そうなビルが殆どで、実際に震災の時にも大丈夫だったらしく、そういうことを逆に良く知っているからこそ、シャルレはここに本社機能を移転したんだろうと思います。

シャルレの本社移転のニュース
https://online.bci.co.jp/article/detail/38

「緑化」により時代を先取りした建築家「石井修」

左奥に見えるのがJUNポートアイランドビル、右がシャルレ本社ビル

さて、そんなシャルレの「働き方改革」を目指すという本社ビルですが、こちらのビルの設計を調べてみました。
こちらは1983年竣工で、今は亡き「石井修」の設計。この方は建物の緑化を特徴とした設計が有名で、シャルレのビルも反対側から見ると蔦が絡まるようなコンクリート階段があり、時代を先取りしたなかなか面白いビルです。

今でこそ、屋上緑化やエコ住宅は珍しくはありませんが、日本で自然との共生や緑化ビルが広まったのは、石井修の功績だともいわれているくらいの建築家のようです。「自然との共生」というテーマでは、奇しくも安藤忠雄も多くのプロジェクトで取り組んでいるテーマですが、このシャルレのビルの2年後に竣工した「ジュン・ポートアイランドビル」もそうしたコンセプトが同様のところも興味深いですね。

「働き方改革」を目指すクリエイティブオフィスとしてビルとして、とてもいい選択のように思えます。

この「石井修」の実績は建築家でもある娘さんの「石井智子」さんのサイトで見ることができます。
https://bikentomo.com/osamu_ishii/work.html

ここからバウムクーヘンが?~ユーハイム本社神戸工場

誰もが一度は口にしたことのあるバウムクーヘンのユーハイム、ここは本社オフィスと神戸工場のあるユーハイムのビルです。

この丸い屋根がJUNポートアイランドビルの方からも見えていますが、バウムクーヘンをイメージした形なのでしょうか?
それはわかりませんが、調べてみると、この建物は戦後モダニズム建築を代表する建築家の「芦原義信」が創業した「芦原建築設計研究所」の設計でした。
「芦原義信」という建築家は「街並みの美学」という書籍でいち早く都市景観の重要性を述べた建築家で、設計実績もかなり豊富な方です。

JUNポートアイランドビルの隣にあるユーハイム本社ビル

主な実績にはソニービルや東京芸術劇場など、数多くの錚々たる実績が残されていますが、面白いのは、この方は華麗なるご一族を縁戚関係に持たれている点。例えば、母方の叔父が画家の藤田嗣治。劇作家の小山内薫は母の従弟さらには鳩山一郎・宮澤喜一・岩崎弥太郎らも縁戚関係になるのだそうです。

芦原建築設計研究所
https://www.ashihara.jp/html/projects.htm

UCC上島珈琲本社ビル

ワールド本社ビルや神戸ポートピアホテルと別のエリアで高さがある目立つビルと言えば、このUCC上島珈琲の本社ビルです。

南公園駅を出てIKEAと反対側の道路に渡るとすぐに目に入るのがUCCのビルです。

UCCのビルには、この本社ビル以外にコーヒー博物館の建物が近くに併設されているのですが、こちらは残念ながら、コロナで閉館になった後、まだ再開されていません。臨時休館中とのことで、いずれ再開されるようです。

こちらは大企業の本社ビルらしい高層ビルに対して、どこかの教会かのよう建物でもあり、まさに博物館らしい外観です。

本社ビルの設計詳細は不明ですが、面白いのはやはりこちらの建物。
なぜこんな外観なのか調べてみると、そもそもこれはコーヒー文化発祥のイスラム教のモスクを模したらしいデザイン。
もともとは、1981年に開催された神戸ポートアイランド博覧会にUCCが出展したコーヒーカップを模した「UCCコーヒー館」というパビリオンをルーツとする施設だったようですが、1986年からの大改装によりこの外観に改装されたようです。
ただ、こちらの建物はアトリエ系の大御所建築家か誰かと思って調べてみたところ、設計も施工も竹中工務店でした。

アシックス本社東館ビル

低層ながらガラス張りで最近の建物のようなモダンなビルがアシックスの本社の東館ビル。やはりこちらは2009年に増築された棟らしく、1980年代に建てられているポートアイランドの企業のビルが多い中で、新しい感じがしたのも20年以上の差があるので当然でした。
こちらは、設計も施工も竹中工務店ですが、「自然通風・採光を積極的に採り入れた、知的創造型のワークプレイスを目指しました。」となっており、第23回日経ニューオフィス賞を受賞しています。
つまり、「クリエイティブ・オフィス」を指向して建てられた増築棟ということで、今の「働き方改革」にも通ずるオフィスをいち早く導入しているビル、ということのようです。

緑が豊富でゆったりとした公園のような敷地に広々としたビルを建てられるポートアイランドにあるオフィスビルは、シャルレやアシックスのいうに、こういう「クリエイティブオフィス」を指向するオフィスがマッチしていそうですね。

竹中工務店のビル紹介ページ
https://www.takenaka.co.jp/majorworks/43803122009.html

 

このビルには「アシックス・スポーツミュージアム」という企業博物館もあります。

ワールド記念ホールとスポーツセンター

コンベンション業務地区ということで大型の公共建築物もありますが、中でも面白い外観の建物がワールド記念ホールとポートアイランドスポーツセンターの2棟。

並んで建っていますが、楕円形のドーム状の建物と三角っぽい建物は対照的な外観です。
調べてみると、この2つとも神戸発祥の歴史ある組織系設計事務所である「昭和設計」が手掛けていました。

ワールド記念ホールは1984年(昭和59年)に竣工ですから、JUNポートアイランドビルの1年前。大阪城ホール(1983年竣工)に次ぐ日本で2棟目の国際級室内陸上競技会開催可能なアリーナを有する施設で、施工には世界初のパンタドーム構法が採用されたとのこと。
ワールド記念ホールという名称は、ネーミングライツではなく、株式会社ワールドが寄附金20億円もの寄付金を拠出したことからつけられたそうですが、正式名称は「神戸ポートアイランドホール」なのだそうです。

面白いのはワールド記念ホールの外観の色です。この赤いレンガ色に見える屋根の本来の色は黒色で、経年により青錆びの緑色の時代があり、その後、さらに経年を経て現在の赤錆びのレンガ色へ変化したようです。
元の黒い屋根はこちらの昭和設計のページで確認できます。
https://www.showa-sekkei.co.jp/jp/about/activity.html

市民広場のモニュメント

市民広場にあるこのモニュメントは、會田 雄亮の作品で「陶と水のモニュメント」という名前。
この方は、陶芸家、造園系彫刻家・環境デザイン造形作家で、環境造形や、練り込み(練り上げ)の工芸作品で知らた方です。
なかなかインパクトのある造形で一際、アートのオーラを発していました。

国際展示場周辺の企業ビルには、ノエビアやフジッコがありましたが、これといった建物の情報が無く、公共施設とともに、写真だけご紹介しておきます。

国際展示場

国際展示場

国際交流会館と市民広場、神戸ポートピアホテル

国際交流会館と市民広場、神戸ポートピアホテル

ノエビア本社

ノエビア本社

フジッコ本社

フジッコ本社

ポートピアの記念碑的建物「バンドー神戸青少年科学館」

 最後になりましたが、神戸ポートピア博覧会でのパビリオンだった「神戸館」と「神戸プラネタリウムシアター」を会期終了後に増改築するとともに展示物を整備して1984年に開館したのが、神戸青少年科学館です。特に設計等の建物詳細はわかりませんでしたが、ポートアイランドの歴史を物語る建物ということでご紹介しておきます。

このビルは、2014年より ネーミングライツ制度が導入されて、ポートアイランドに本社のある総合化学メーカーの「バンドー化学」 の名前が入り、現在の名称になっています。
ポートピア博覧会のパビリオンの名残は、UCCのコーヒー博物館やこの青少年科学館に受け継がれているんですね。