ジュン・ポートアイランドビル~四方から見れる安藤忠雄

ジュン・ポートアイランドビルとは

JUN PORT ISLAND BUILDING

ジュン・ポートアイランドビル(JUN PORT ISLAND BUILDING)は、アパレルブランドの「JUN(ジュン)」のビルとして、1985年に、神戸市中央区港島中町7丁目に、安藤忠雄建築研究所の設計で建築された、オフィスや店舗、倉庫、ホールといった複合機能を持ったビルです。

昨年まで「JUNグループ」の「FALKLAND」というブランドのアウトレットショップがあったようですが、閉店となり現在は空きビルです。

店舗部分は一般の方も内部をご覧になっていると思いますが、企業のプライベートなビルでしたので、建物内部が詳しく紹介されたことは竣工時の雑誌以外には殆どないかもしれません。

敷地が広く余裕のある4階建ての低層ビルで、狭小地の安藤建築と違って、ぐるりと4方向から見ることができ、また美術館等の公共建築以外でこれだけのスケール感、迫力があるのも安藤建築の中では、貴重だと思います。

JUN ポートアイランドビルの外観夜景
この日は照明がついた夕景を撮影できました。天井のスポット照明がホタルのようで幻想的。

ジュン・ポートアイランドビルの概要

■ビルの概要
ビル名:ジュン・ポートアイランドビル(JUN PORT ISLAND BUILDING)
所在地:兵庫県神戸市中央区港島中町7丁目6番
交通:ポートアイランド線(ポートライナー)「南公園」駅より徒歩3分
土地:6238.86㎡(1887.26坪)
建物総面積:5212.70㎡(1576.84坪)
主要構造:鉄筋鉄骨コンクリート造り 陸屋根地下1階付地上4階建
用途:事務所・倉庫・店舗
設計:安藤忠雄建築研究所
http://www.tadao-ando.com/
竣工年:1985年
上記は雑誌データより

「JUN(ジュン)」とは

JUN(ジュン)は、株式会社JUNの主力アパレルブランドで、1958年の創業時には試行的にメンズの水着等を販売していたようです。当初は独自のトラディショナル風スタイルで知られ、後にコンチネンタルルックに転換しました。

ブランドコンセプトはClassical Eleganceで、リチャード・アヴェドンの広告で知名度を高めました。
JUN、DOMON、ROPEなどのブランド名は和風でローマ字読みも可能で、VANやDCブランド名など外国語によるものとは異なっていることが社会学的な関心が持たれるところともなっているようです。

公式サイトを見ると、このロゴマークは今でも同じものが使われていますね。

「JUN」の公式サイト
https://www.jun.co.jp/

この「ジュン・ポートアイランドビル」では、「メンズ&レディースファッションからアクセサリー、インテリア雑貨まで、JUNグループのアイテムを取り扱うブランドショップ」という「FALKLAND」の店舗が運営されていたことから、建物には「JUN」のロゴ意外に「FALKLAND」のロゴも残っています。

ビルの内部には店舗の他にオフィス、倉庫、ホールまであり、かつてはホールでファッションショーとかが開催されていたようです。

ビルの東側面。「JUN」のロゴはまだそのまま。木立の影や日照と経年の汚れと相まって雰囲気があって面白い表情になる。

ポートアイランドとは

ポートアイランド(Port Island)は、神戸市中央区の神戸港内に作られた人工島で、略称は「ポーアイ」「PI」です。
神戸大橋及び港島トンネルによって神戸市中心部と結ばれ都市機能を一通り備えた、日本で最先発のウォーターフロント都市であり、完成当時は世界最大の人工島でした。

キャッチコピー「山、海へ行く」のもとに、六甲山地の土砂で瀬戸内海の一部を埋め立てるという方法で、2期に分けて造成されています。第1期工事が竣工した1981年には街びらきに合わせ、神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア’81)が開催されて大成功を収め、その後の地方博覧会のモデルとなったと言われています。

ジュンポートアイランドビルがある地域は、第1期工事のエリアで、地区計画上は「ファッション・コンベンション業務地区」となっており、このエリアにアパレルブランドの企業本社や、神戸国際展示場等が集まっていて島の中心部とも言える立地です。

最近では島開きの1981年から40年以上が経過、その間に起きた震災には防災対策や街の復興を達成したものの、神戸側の湾岸エリアの賑わいほどの活性化はまだできていないことから、神戸空港の国際化の決定を機に様々な活性化施策への取り組みが始まっています。

神戸市の「ポートアイランド・リボーンプロジェクト」
https://www.city.kobe.lg.jp/a74227/pi_reborn.html

ホテルパールシティの室内から見たジュンポートアイランドビルとポーアイの夜景

ジュン・ポートアイランドビルへの交通アクセスとロケーション

神戸三宮からポートライナーで「南公園駅」まで約13分です。

「南公園駅」に隣接して広大な「IKEA神戸店」がありますが、IKEAとは道路を挟んで反対側に向かって歩いて約4分で「JUNポートアイランドビル」に着きます。(タクシーだと三宮駅から約10分と近いので観光がてらの方はタクシーの方が早くて楽です。)

ポートライナーの「南公園」駅を出てすく、UCC上島珈琲の本社らしきビルがひと際目立ってそびえているのが見えますが、「JUNポートアイランドビル」は4階建てと低層なので遠くからは目立ちません。

ジュン・ポートアイランドビルの周辺ロケーション

周辺には、ファッション・コンベンション業務地区という指定があるらしく、ジュンポートアイランドビルが、アパレルの「JUN」のビルとして建てられたように、ワールドやアシックス、シャルレ、ジャヴァグループ、大月真珠といったファンション系の大企業の大きなビルがドカンと建っています。
一方で、ホテルや観光施設、結婚式場等のビルもありますが、なぜか、ユーハイムやUCCのような飲食系の企業のビルもあります。

そして、少し先にはコンベンション地区というだけあって「神戸国際展示場」や「神戸コンベンションセンター」、様々なライブコンサート等も催される「神戸ワールド記念ホール」、その隣には「ポートアイランドスポーツセンター」が並んで建っています。

とにかく、どこのビルも敷地が広大で、公園のように木々が周辺に豊富に植えられており、お散歩がてらに歩いてみると、とても気持ちの良いエリアです。

JUNポートアイランドビルも、建築当時の芝生の庭が駐車場になってはいるものの、周辺が緑の木々に囲まれており、経年によるコンクリート壁の風合いも自然に溶け込んだ感じがして公園の中の美術館かのような建物です。

右奥に見えるのはワールドの本社ビル

FEATURES OF JUN PORT ISLAND BUILDING

ジュン・ポートアイランドビルの特徴

ジュン・ポートアイランドビルはとてもスケール感の大きいビルです。正面シルエットはコルビュジェの国立西洋美術館のよう。

遠目にも安藤忠雄とわかる圧倒的スケール感

安藤忠雄の作品としては、公共建築以外では比較的規模の大きなビルだと思いますが、このビルの特筆すべき点があります。

それは、例えば南青山にある商業施設の「ラ・コレッツィオーネ」もそれなりの規模があり、この時期の安藤作品としては、部分部分をみると、定番のデザインが使われていて、よく似た部分もあるのですが、「JUNポートアイランドビル」は敷地面積が広大で建物は低層なため、極めてスケールが大きく迫力があることです。

安藤忠雄の定番のコンクリートのブリッジと半円形ドームもすぐ近くの「旧モロゾフP&Pスタジオ(現)」よりもかなり大きく、遠目に見てもデザインのポイントとなっていて、この特徴を知っている人なら安藤忠雄のビルであることはすぐわかります。

さすがに、兵庫県立美術館のようにブリッジの上に青りんごがある訳ではなく、「ブリッジ」自体が建物の特徴を醸し出すデザインとして存在するものですが、いろんな場所に同じようなブリッジを組み合わせていくつも散りばめたケースと違って、ドーンと目立つように使われています。

コンクリートのブリッジと半円の組み合わせで、遠目にも安藤忠雄とわかります。

外観の4つの側面全ての表情が異なる面白さ

木が茂る東側の通りから、このブリッジと半円形の一角が組み合わされた外観を見上げると、スケール感もあって、これぞ安藤忠雄、というカッコ良さ、美しさが際立ちます。
東側は特に木立の緑と程よいコンクリート壁の経年感がマッチして、森の中の神殿のような荘厳さがあります。

この日は天気も良くて、半円ドームとコンクリートブリッジの幾何学デザインの開口部から除く青空の空間が、木立の緑と混じって特にカッコいいアングルです。これぞ安藤忠雄という感じで、ここだけでも永久保存してほしいくらいですが、安藤忠雄の建築の中では、この手法のデザインは珍しくはないからか、書籍等でも代表作とかで出てこないのが不思議です。

やはり、同じデザインのパーツでも、スケール感と自然との融合の調和加減はその物件ごとに異なるので、魅力もそれぞれに異なります。
遠くにUCCビルが見える以外に、東京のように周りにビルが見えないのも、この広いポートアイランドの敷地ならではの個性になっており、こういう広大な敷地を贅沢に低層で建てる物件は、もう二度と作れないのではと思います。

外壁もしばらく手入れされてないようで、経年の汚れがありますが、それが逆に木立の緑とマッチしているところも自然に溶け込んでいるようで面白いです。もっと見直されてもいい、安藤忠雄の隠れた傑作ではないでしょうか。

ジュン・ポートアイランドビルの東側は木立に経年のコンクリート壁の風合いが良くマッチしていて逆に味わいがあります。

コンクリート板に「JUN」の看板が映える西側

西側は葉が落ちた木立ですが、木の影が壁に落ちると、意外にカッコいい。
コンクリート打ち放しはどうしても経年の雨汚れが目立ちますが、こうして自然の木立の中にあると意外にもマッチして風格を感じます。
ピカピカに高圧洗浄かけて磨くより雰囲気があって面白いかも。

ジュンポートアイランドビルの西側外観写真
JUNのロゴがあるコンクリートの板に見える箇所の裏は階段になっている。

夕景が映える南側正面

南側の正面は、建築当時の緑の小高い庭が駐車場になっているためやや大味な印象、みたいに感想を書いている方もおられますが、シルエットだけ見ると、上野にあるコルビュジェの国立西洋美術館のようにも見えるし、東京の狭い敷地にあるビルだと正面からしかわからない建物も多いですが、ここは建物をグルっと1周すると、それぞれ違った表情を見せてくれる、とても面白くてすごく貴重なビルだと思います。

因みに夕景も撮影してみましたが、窓に内部の照明がついていれば、南正面側もかなり見栄えのするカッコいい外観です。

新築当時の緑の庭が駐車場になっているのが残念との声もありますが、建物だけでも夕景がとても映える南正面外観

機能性重視の北側(裏側)も意外とカッコいい

北側は倉庫用のトラックバースになっており、実用的な造りです。しかし、ここでも神殿のような柱や壁の光のスリット等は、安藤忠雄らしいデザイン。

敷地の狭い建物ではあまり見ることがない裏側にあたりますが、この建物ではオフィス以外に倉庫部分もかなり広いようで、トラックがバックで入って荷物を積み下ろししやすいバースにしてあるため、凝ったデザインは特にありません。
しかし、遠くから角度をつけてみたりすると、すごくカッコよかったりするところが、さすが安藤忠雄です。
ぐるりと1周してみると、北東の角からもカッコいい写真になります。

西側と東側の「JUN」のロゴがあるコンクリート板の壁はどちらも階段の壁ですが、同じデザインで対にしたデザインが気が利いててカッコいいのですが、こういうことは敷地に余裕がないとできないことです。

北側はトラックバースがあります。
北東からみた外観もスケール感もあってカッコいい。木々の葉が茂るとまた違うイメージかも。

「JUNポートアイランドビル」の安藤忠雄の本人解説

ことさらに、ジュンポートアイランドビルが代表作として取り上げられることもなく、私が探した限りでは、雑誌で詳しく紹介されたのは、実は竣工時の「新建築」という専門雑誌のみではないかと思われます。

約40年も前の竣工当時のビルが掲載されたこの雑誌が運よく入手できたのですが、そこには、貴重な安藤忠雄ご本人の寄稿文が掲載されていました。「ジュン・ポートアイランドビル」に関する貴重なご本人の解説を少し引用してご紹介しておきます。

今まで見てきたこの建物の周辺環境とともに年齢を重ねてきた魅力を考えるにつけ、庭が駐車場になったりしつつも、安藤忠雄の企図した「新しい出会いに満ちた豊かなもの」に深化し続けているように感じました。

敷地はその場所にふさわしい建築を要求する。

(中略)
~敷地に残されたわずかな手掛りから、私は敷地の造形からはじめ、内と外との関係を同時に問いながら、内部風景をつくり、建築の拠ってたつ基盤を追い求めていった~
(中略)
~グリッドによって、均質な土地に秩序を刻み、壁によって場所を囲い取り、あるいは外へと開いて、風景を意図的に切り取ることを試みた~
(中略)
敷地の条件と建物の機能から、個性を欠いたオフィスビルとなりかねなかったこの建物を、コンクリートとガラスと緑という限定された素材のなかに思いを込めることによって、新しい出会いに満ちた豊かなものにすることが願いであった。~安藤忠雄

(雑誌「新建築(昭和61年6月発行 第61巻6号)」記事からの引用抜粋)

緑の小高い庭は駐車場になってしまいましたが、時代とともに移ろうのが不動産の宿命です。

「JUNポートアイランドビル」の内部が見れるサイト

JUNポートアイランドビルの貴重な内部写真が見れるサイトがあります。
内部もスケール感のある荘厳な教会か美術館のようなスポットもあり見ごたえがあります。
私の撮影した外観写真等もご提供させて頂いたサイトということでご紹介しておきます。
貴重な内部まで見ることができるので安藤建築ファンの方には、おススメです。

東京南青山にある商業ビル「ラ・コレッツィオーネ」

もうひとつのポーアイ安藤作品